今回は2022年に出版された、郡司芽久さんの『キリン解剖記 キリンの首の骨が教えてくれたこと』を紹介します。
おすすめは中学生から大人まで!
マニアックな6年生も読めるよ。
こんな人たちにおすすめです。
・キリンがとにかく好き
・研究者の仕事について知りたい
・将来もしくは今仕事で迷っている人
せひ最後までご覧ください。
ちょとだけ自己紹介。
小学校で学校司書をしているアーサーです。
普段は学校図書館に来る子どもたちに色々な本をおすすめしています。
★学校司書ってなに?と思った方はこちらをお読みください。
あらすじ
『ジュニア版 キリン解剖記 キリンの首の骨が教えてくれたこと』
著 郡司芽久 出版社 ナツメ社
キリン好きな子どもだった著者の郡司さん。
大学生の時に将来を見据えて決めたやりたいことは「キリンの研究」でした。
この本では生きたキリンは出てきません。
約10年間、亡くなったキリンたちを解剖し進化の秘密を解き明かしていきます。
1頭1頭のキリンに愛がある郡司さんの研究のお話です。
★総ルビ、ページ下には専門用語などの解説あり
答えが見つからない時にどうするか
私がいいなと思ったところは2つあります。
1つ目は「答えが見つからないときに言われて気付いたこと」です。
初めての解剖の時のことです。
教科書に載っている他の動物の解剖図を片手にやったものの、何一つ筋肉の名前が分からず苦い思い出で終わったそうです。
その3日後、運のいいことにまたキリンの解剖のチャンスが巡ってきました。
しかも今回は1人じゃありません。
前回の失敗や反省を踏まえ、参加した研究員に質問すると
「わからないなあ。まあ、筋肉の名前は、とりあえずそんなに気にしなくてもいいんじゃない?名前は名前だよ。誰かがつけた名前に振り回されてもしょうがないし、自分で特定できればいいんじゃない。(略)自分でわかるように、どことどこをつなぐ筋肉かきちんと観察して記録しておけばいいでしょ。」
『キリン解剖記』P.71~72
という答えが返ってきて、郡司さんは心底驚いたそうです。
でも言われてみれば動物の筋肉の名前というのは人間の筋肉をベースにして名づけられています。
教科書に描かれている解剖図もキリンではなく他の動物の解剖図です。
解剖の目的は、「名前を特定することではなく、筋肉の構造を理解すること」
名前を意識しすぎて先入観にとらわれていると、ありのままを観察できなくなります。
郡司さんは名前に振り回され教科書の中の答えを必死に探していて、キリンとしっかり向き合ってなかったことに気付きます。
ここから解剖は意味を持ったものへと変わっていき、この時の解剖ではうなじの筋肉の働きが分かり名前の特定ができたのです。
この郡司さんの経験を読んでいて、学校で習ったことや教科書に載っていたことが頭にあると先入観にとらわれた答えを探してしまうことってあるなと思いました。
でも社会に出た時にぶつかる悩みの答えって一つとは限りませんよね。
答えが見つからない時、自分が進みたい未来や目的を思い出し、先入観にとらわれずありのままを観察すれば郡司さんのように意味を持って先に進んでいけるんだなと思いました。
悩んだ後の進み方
2つ目は「研究テーマを決める中で悩んだ果てに辿り着いた郡司さんの考え方」です。
研究者とは「まだ誰も答えを知らない謎や疑問を見つけ解き明かす作業をしている人」のことです。
郡司さんは大学1年生でキリンの研究者になると決め、解剖の分野で研究をしていくことを選びました。
しかし具体的にキリンを解剖して何を研究するかというのが最大の問題です。
「まだ誰も答えを知らない謎や疑問」を見つけるために、解剖して観察してを繰り返しますが
なかなか研究のタネになるようなものが見つからず、気落ちしていた郡司さんに先輩はこんなことを言いました。
「凡人が普通に考えて普通に思いつくようなことって、きっと誰もがもう既にやっていることだと思うんだよね。(略)本当におもしろい研究テーマって、凡人の俺らが考えて考えて、それこそノイローゼになるくらい考え抜いた後、更にその一歩先にあるんじゃないかな。だから、そうやって悩みながらいっぱい考えてみるといいよ。」
『キリン解剖記』P.109
普通なら気落ちしている人にさらに考えろというアドバイスは良いとは言えないかもしれませんが、郡司さんはこれを言われてスッキリしたそうです。
なぜなら「自分は凡人で、しかも研究を始めたばかりだ。面白いアイデアが出ないなんて、当たり前じゃないか。」と思えたからだそうです。
今でもうまくいかない時や1つのことを考えすぎて煮詰まったときは
「ああ、今こそ世紀の大発見の一歩手前だ」と考えるそうです。
私の場合、悩んでいると下へ下へと落ちていってしまうので郡司さんのこの考え方はすごく前向きでいいなと思いました。
「自分は凡人で、しかも研究を始めたばかりだ。面白いアイデアが出ないなんて、当たり前じゃないか。」
一見あきらめてるようにも聞こえる言葉ですが、郡司さんはこれで落ち込んでる気持ちをリセットしてるように思えました。
さらに「ああ、今こそ世紀の大発見の一歩手前だ」とユーモラスな言葉で再スタートをする。
この再スタートのためのユーモラスな言葉がけで、また前に進んでいける。
自分の日常生活でも役立てそうな考え方だなと思えました。
本文以外もおもしろい
本文以外にもコラムや研究者の仕事やキリンの豆知識、動物に関わる仕事をしている人との対談が本文の間に書かれています。
その中でもおもしろいなと思ったのは、動物に関わる仕事をしているお二方との対談です。
1人目は動物園の広報をしている方で、2人目は動物が食べる植物の栽培・販売をしている方です。
動物に関わる仕事というと、獣医さん、ペットショップ、トリマー、動物園や水族館のスタッフなど直接関わる仕事を思い浮かべますが、この二人は間接的に関わる仕事をしています。
詳しい仕事内容は読んでのお楽しみにしますが、お二人とも仕事の選び方を書いているのでそこを紹介します。
広報の方は、最初は獣医さんとして働いていましたが飼い主さんがあまり動物のことを知らないというので広報の仕事に繋がりました。
仕事は変えても良いし、動物が好きを中心に据えたらどんなふうに生きてきたいかを考えるといいとのことです。
例えば動物が好きで絵が好きならデザインを勉強して動物園の看板や雑誌の絵を描くとか
動物保護に興味を持った子は法律を整えたいと法律の勉強を始めたとか
直接でも間接的にでも色々な組み合わせ方でたくさんの道が開けてきます。
また動物が食べる植物の栽培・販売をしている方は元々、酪農家の牧草を栽培・販売していましたが
動物園が草食動物の食べ物を探していることを聞き、牧草以外の植物を栽培し始めたそうです。
この仕事は日本でただ一つここの会社だけしかやっていませんので唯一のお仕事です。
ライバル会社はいませんが参考になる会社もありません。
日々、動物たちの好みを研究して提供しているやりがいのある仕事だと思います。
私たちが仕事を選ぶときは、つい今ある仕事から選びがちですよね。
でもこの方の様に、今はなくても必要とされる仕事を始めることもできると
この対談では教えてくれました。
終わりに
最初に手に取ったときは科学読物で、キリンの首のひみつが分かる本かと思って読み始めました。
キリンの首の骨のひみつが徐々に分かっていく過程もおもしろかったのですが、
それ以上に郡司さんの研究している姿や研究で解剖してきた1頭1頭のキリンへの愛が
とてつもなく感じられ最後まで飽きずに読むことができました。
本の最後「おわりに」の章では映画のエンドロールの様に感じ心の中は拍手喝采になりました。
キリン好きな人もそうでない人もぜひ読んでみてください!
コメント